後輩
先輩
前囘のキーワードを覺えてゐますか?
主語 + 謂語 + 賓語
今囘はこの内、主語と謂語についてまとめていきます。
先輩
なぜならここに書いてあることは、僕たちが普段の日本語で無意識に實踐できてゐることだからです。
- 漢文の基本的な形1 主語+謂語(述語)+賓語(目的語)
- 漢文の基本的な形2 主語+謂語(述語)
- 漢文の基本的な形3 謂語(述語)+賓語(目的語)
- 【未完】漢文の基本的な形 補足1 雙賓文について
- 【この記事です】漢文の基本的な形 補足2 判斷文について
※謂語は述語のこと、賓語は目的語のこと。このサイトではこのやうに表記していきます。
※主語・謂語の分類については『全譯 漢辭海 第三版』『ためぐち漢文』を參考にしてゐます(記事末筆を參照)
主語+謂語の主謂構造(主述構造)は、やたら多い
- 何が何か?
- 何が何する? される?
- 何がどう?
- 何がある?
このやうに、人が文章を書くときには必ず 主語+謂語 の形が出てくるものです。
主語と謂語との關係性に應じてどんな種類の主語、謂語があるのか見ていきませう。
後輩
主語の種類
主題主語 Aは(が) Bだ
〔漢〕師叔、楚之崇也。
※「師叔」は人名。「也」はこの際考へなくて大丈夫です。以下同じ。
〔日〕師叔は、楚國の人格者である。
主題主語については特に説明することは無いでせう。
施事主語 Aは(が) Bする
〔漢〕項羽怒。
※項羽は人名です。
〔日〕項羽は怒つた。
これも普通の「~する」といふ文です。
もしこれに「めっちゃ怒つた」といふニュアンスを加へたいなら、
〔漢〕項羽大怒。
〔日〕項羽は大いに怒つた。
かうなるわけです。
先輩
受事主語 Aは(が) Bされる
〔漢〕別房、幽禁。
〔日〕部屋を替へて、監禁される。
このやうに、場合によつてはシンプルな受身を表すことができます。
受身形について
漢文にも當然ながら受身形はあります。
- A見[動詞]
- A被[動詞]
- A爲B所[動詞]
受身形の構文は、だいたい以上の通り。すべて「Aが[動詞]される」といふ意味です。
この受身系の書き方について、加地伸行氏(2010:260)は『漢文法基礎』で「受身を表す助動詞がない場合でも文脈上受身になることがあるといふことである」と述べてゐます。
また植田眞理子氏(2016)も「受身も例外ではありません。やはり基本は『何もなくても文脈から受身』なのです」と述べてゐます。
つまり、文脈上その文が受身形であることが分かり切つてゐる場合は、
- A[動詞]
のやうな形にすることが可能といふことです。
存在主語 Aに Bがある (Aが Bを有する)
〔漢〕夫婦有別。
〔日〕夫婦の間に隔てがある。
〔漢〕天乎!吾無罪。
〔日〕天よ!私に罪はない。
存在主語とは、「有・無」を伴ふ文です。
存在といふ概念に關しては、日本語と中國語とで認識が正反對で、それが語順にも反映されてゐます。
この特殊な形の文型を、存現文といひます。
▼存現文についての記事を書きました。
存現文の書き方。「ある・ない」「多い・少ない」「雨が降る」など
謂語の種類による文の種類
判斷文 Aは[名詞]だ
〔漢〕項籍人。
※「項籍」は人名です。
〔日〕項籍は人である。
判斷文についてはパット見で分かりますね。
▼判斷文についての補足を書きました。
判斷文の書き方バリエーション。「A者B也」「A是B・A爲B」など
少し複雜な文
ちなみにこの文は以下の文を改變した文で、原文はこちら。
〔漢〕項籍者下相人也。
※「者」は、この際考へなくて大丈夫です。「下相」は地名。
〔日〕項籍は、下相の人である。
かういふ、ちよつと込み入つたパターンも書くことができます。
謂語の部分に注目してみます。
「下相 + 人」
「人」に對し、どんな人かを表す「下相」が付いただけで、「主題主語」の所で出てきた「楚之崇」と同じです。
この「人」に對する「下相」は、文法的に「定語」といひます。
定語は名詞を修飾する言葉で、日本語の「連體修飾語」のことです。
▼定語の詳しい記事はこちら
漢文の付加的な形 定語と状語などの修飾語
後輩
大丈夫。定語といふ言葉が難しいだけで、僕たちが普段、日常的に使つてゐることです。
以下、定語のパターンを擧げてみますが、全部なじみのある形です。
〔漢〕我木
〔日〕私の木
〔漢〕山木
〔日〕山の木(山にある木)
〔漢〕高木
〔日〕高い木
〔漢〕三木(三個木)
〔日〕三本の木
定語については後日別の記事で書かうと思ひます。
▼追記:書きました。
漢文の付加的な形 定語と状語などの修飾語
〔漢〕所以儆人臣也。
〔日〕人臣に警告する理由である。
他にも1つの文がまとめて謂語(謂部)になる場合もあります。
ちなみにこの文では主語が省略されてゐます。
描寫文 Aは[形容詞]い (Aが[形容詞]い)
〔漢〕天長地久
〔日〕天は長く、地は久しい
これはパット見で分かりますね。
特に説明することは無いでせう。
敍述文 Aは[動詞]する (Aが[動詞]する)
〔漢〕秦滅。
〔日〕秦は滅んだ。
主語Aが何かをする時の文章で、つまりは普通の動詞の文です。
この文は、場合によつては賓語を伴ひます。
〔漢〕秦滅韓、亡魏。
〔日〕秦は韓を滅ぼし、魏を亡ぼした。
入れ子の文 AはBが[述語]だ
〔漢〕象[鼻長]。
〔日〕象は[鼻が長い]。
これは「象は~だ」といふ判斷文の中に、「鼻が長い」といふ描寫文が組み込まれた文です。
難しい言葉で「主謂謂語の主謂文」あるいは「主述述語の主述文」といひます。
「鼻が長い」といふ主謂文がそのまんま謂語になつてゐるわけですね。
先輩
この文は「象の鼻」+「長い」で普通の描寫文。
漢文は簡潔さが第一なので、ニュアンスが違ふのに見た目は同じ形になる現象がよくあるんです。
まとめ
主語 + 謂語 + 賓語
今囘は主語と謂語についてまとめました。
後輩
先輩
- 漢文の基本的な形1 主語+謂語(述語)+賓語(目的語)
- 漢文の基本的な形2 主語+謂語(述語)
- 漢文の基本的な形3 謂語(述語)+賓語(目的語)
- 【未完】漢文の基本的な形 補足1 雙賓文について
- 【この記事です】漢文の基本的な形 補足2 判斷文について