漢文の付加的な形 助動詞

先輩! 定語・状語以外にも何か無いの?

後輩

先輩

そんなあなたに助動詞がオススメ。

 

以前、定語・状語の付け方を記事に書きました。

漢文の付加的な形 定語と状語などの修飾語

 

今囘こんくわい紹介する助動詞で表現できるのは以下の通り。

  • 可能
  • 必要・當然たうぜん・認定
  • 願望・希望
  • 受動

それでは、助動詞について見ていきませう。

 

助動詞とは

助動詞は「動詞」

まあ、「助動詞」つて言ふくらゐだからね

後輩

後述しますが、漢文の助動詞は動詞などが變化へんくわした言葉です。

 

[動詞] + [賓語]

これは普通の動詞の構造ですが、助動詞も同じ。

よつて助動詞構文も[動詞] + [賓語]の基本文型とかなり似たものになつてゐます 1)

助動詞構文の作り方も後述。

 

助動詞の由來

  • 可…形容詞「よろしい」から
  • 能…動詞「~できる」から
  • 欲…動詞「ほしがる」または副詞「欲す」から
  • 願…動詞「ねがふ」から

多くの助動詞は動詞など、他の品詞から派生して助動詞になりました。

つまり、最初から助動詞として生み出された語は無いといふことです。

 

助動詞の分類、綫引きは曖昧

上述のやうに、助動詞は色んな品詞が變化したものなので、人や書籍によつては分類に相違があります。

加藤(2018:101)は「漢文の助動詞は、動詞由來のもの、副詞由來のものなど雜多で、副詞や補助動詞との境界綫が曖昧な助動詞も多い」と説明してゐます。

 

たとへば「可」などの語は、誰もが「これは助動詞だ」と言へる語でせう。

「將」字などは、『漢辭海』は副詞としてゐますが、西田(2014:38)は助動詞的助辭じよじとして解説してゐます。

 

助動詞の役割と種類

助動詞には文章に何らかのニュアンスを付け加へる役割があります。

そのあたりは基本的に定語・状語と同じですね。

漢文の付加的な形 定語と状語などの修飾語

 

以下に記述する「可能」「必要・認定・當然たうぜん」「願望・希望」「受動」の意味を追加したい場合に、助動詞が使はれます

『漢辭海』の解説をベースに、ここでは助動詞を4つに分類することとしました。

 

可能

「~できる」「~することができる」「~する價値かちがある」みたいな意味を表現できます。

 

必要・當然・認定

  • 應(応)
  • 當(当)

「~すべき」「~するとよい」「~するのが當然だ」みたいな意味を表現できます。

 

願望・希望

「~したい」「~したく思ふ」みたいな意味を表現できます。

 

受動

「~される」「~を被る」みたいな意味を表現できます。

 

なほ、ここでは全體的ぜんたいてきな分類について書くに留め、個々の字・語の意味の違ひや使ひ分けについては、後日別の記事で書くこととします。

 

助動詞構文の作り方

[助動詞] + [賓語化した文]

↑典型的な助動詞構文

 

基本的に入れ子の文になる

『春秋左氏傳・昭公』

〔漢〕[公室]也。

※「臣」は一人稱代詞。「公室」は「君主の家系」のこと。

〔日〕私は[君主の家系を擴張]させたい

典型的な助動詞構文。願望・希望の文です。

 

君主の家系を擴張させる」といふ意味の文「公室」がそのまま賓語になつて、助動詞「」の下に付いてゐるのが分かるかと思ひます 1)

先輩

つまり「『君主の家系を擴張くわくちやうさせる』ことを希望する」といふこと。

 

助動詞構文の作り方は以上です。

[動詞] + [賓語]の文が、ちよつと複雜ふくざつになつただけかー。

後輩

 

否定形

『國語・周語中』

〔漢〕[]也,而[]也。

〔日〕民は[親しむ]べきで、[虐げる]べきではない

助動詞を否定したい場合は、否定副詞「不」や打消動詞「無」などを助動詞の前に置くとよいです。

 

では「入れ子の中にある動詞部分だけを否定したい」、そんなときはどうするか?

『春秋左氏傳・成公』

〔漢〕不安其位[[]]

〔日〕その地位に安んじなければ[[長續きすることは]できない]はずだ

否定詞を中に入れれば大丈夫です。

この内部的な否定は「必要・當然・認定」タイプの助動詞が多い印象です。

 

『墨子・天志中』

〔漢〕天之意[]也。

〔日〕天の意志であり[從はざる]をない

助動詞構文の賓部を否定の文にして、さらにその助動詞を否定する。

これを二重否定と言ひ、可能の助動詞でよくある形です。

先輩

これもそのうちやります。

 

状語の位置

『國語・周語中』

〔漢〕[]

〔日〕精氣は[大いに蓄へる]べきだ

状語(連用修飾語)は、基本的に入れ子の中にある動詞に前置させます。

 

構造助詞「所」で助動詞を名詞化

『隋唐・食貨十一』

〔漢〕誠非明主所當宜[]

 

〔日〕これはまことに名君の[行ふ]べきことではありません。

構造助詞「所」を付けて「所當宜行」とし、まるごと名詞化、といふ處理しよりをしてゐます。

「所」については、そのうちどこかで助詞の記事で書きますのでお待ち下さい。

 

ちなみにこの文の助動詞は「當宜」で、連文になつてゐます。

連文に付いては後述。

 

同じ助動詞なら自由に代入可能

  • [主語] + [助動詞] + [動詞] + [賓語]
  • [文]私は[漢文を説明]できる
  • [文]私は[漢文を説明]したい
  • [文]私は[漢文を説明]すべき
  • [文]私は[漢文を説明]される
  • 可以[文]私は[漢文を説明]できる

こんな風に簡單かんたんに入れ換へられるので、この圖式づしきを頭に入れておくと作文の時に便利です。

先輩

連文(後述)も同じだよ。

 

助動詞の複合

「以」「而」と複合

可能の助動詞は、「可以・可而」「得以・得而」「足以」などの複合型を作ることができます。

なんだか難しさうですが、結論から言ふと、文の意味的には付いてない場合とほぼ同じです。

先輩

語調を整へるため、2文字化したりするわけ

 

介詞「以」

『論語・爲政』

〔漢〕可以[]矣。

※「爲」は、「~になる」といふ意味の動詞。

 

〔日〕昔のことを復習して新知識を理解すれば[先生になることが]できるのだ。

「可以」の文の例文。

「可以爲師」のところがさうですね。

 

介詞かいし、また新しい概念が出てきた……

後輩

「以」は介詞(前置詞)で、「~によつて」「~を用ゐて」といふ意味です。

介詞については、この記事内では書ききれないので、後日別の記事で書きます。

 

  • 可以A[動詞]B
  • AによつてBを[動詞]することができる

「可以」などの形は、元々この意味を表すための構文でした。

 

試しに簡單かんたんな文型から確認していきませう。

介詞「以」は、以下の例文のやうに、動詞と同じく賓語をとるのが普通です。

『孟子・公孫丑章句上』

〔漢〕[]者

 

〔日〕[徳によつて仁政を行ふ]ものは王者である

まづは普通の「以~」構文から。

「者」は直前の文を名詞化したり、主語のマーカーになる助詞です。

▼詳しくはこの記事をどうぞ。

判斷文の書き方バリエーション。「A者B也」「A是B・A爲B」など

 

  • 徳によつて仁政を行ふ

「以~」の部分をきだしてみると分かりやすいでせうか。

 

次に「以~」の文に助動詞を付けてみるとどうなるか、見てみませう。

『文天祥・指南録後序』

〔漢〕[口舌]也。

※「口舌」は言葉といふ意味。

 

〔日〕[言葉によつて飜弄される]はずだ

見事、「AによつてBを[動詞]することができる」の形にすることができました。

 

ですが、「A」の内容が分かり切つてゐる場合はどうでせうか。

『論語・爲政』

〔漢〕可以[]矣。

※「爲」は、「~になる」といふ意味の動詞。

 

〔日〕昔のことを復習して新知識を理解すれば[先生になることが]できるのだ。

最初に出てきた例文です。

 

これをむりやり「可以A[動詞]B」にてはめると、こんな形になるはずです。

  • 溫故而知新,可以爲師矣。
  • 溫故而知新,可以溫故而知新爲師矣。

どちらもかなり鬱陶しい文になりました。

いづれにしても、「以」の賓語部分が「溫故而知新」であることは明らかでせう。

しかも「可以」以下の文で重要なのは「爲師」で、「以之」は別に無くても大丈夫ながします。

先輩

かういふケースが多いので「可以」文の場合、「以」の賓語部分は省略されやすいんだつて。

「可以口舌動也」のやうに、省略しない方がよいと思はれる場合もあるので、そのへんは使ひわけですね。

 

連詞「而」

これも「以」と似たパターンで、あつても無くても意味は同じです。

先輩

連詞は接續詞せつぞくしのこと。これもそのうち記事に書きます。

 

複數の助動詞による連文(複合形)

助動詞を2つ合體がつたいさせて連文を作ることもできます。

何故わざわざ字を水増しするやうな事がなされるのでせうか?

 

「可」の用法 形容詞 よろしい。
動詞 同意する。
助動詞 可能
必要・當然たうぜん・認定

たとへば「可」。

助動詞以外にも形容詞、動詞の用法があり、「可」を單獨たんどくで使ふとややこしい事があります。

しかも助動詞としての「可」は、「可能」と「必要・當然たうぜん・認定」の2つあり、文脈しだいではどちらの用法なのか解らなくなることも。

 

そんなときに「可得」や「可宜」等と書いておけば、ひと目で見分けが付くでせう。

このやうに、2つの字を合はせて語の意味を固定することを連文といひます 2)

「可得」は可能。「可宜」は當然たうぜん・認定の用法と分かるね。

後輩

 

可能に關する助動詞の連文

『孟子・梁惠王章句上』

〔漢〕可得[]乎?

 

〔日〕[聞く]ことができますか?(聞かせてくれますか?)

可能の助動詞が互ひに結合することもあります。

といつても、「可」+「得」の形くらゐですが。

先輩

これも語呂合はせの他、「この『可』は可能の助動詞で、當然たうぜんの意味ではありませんよ」といふ意思表示も兼ねてゐるよ

 

また、さらに「以」「而」を付けて「可得以・可得而」と書かれることもあるさうです。

『孟子・梁惠王章句上』

〔漢〕夫子之文章,可得而[]也。

 

〔日〕先生のご威儀については、[聞いて理解する]ことができました

すごい、もつたいぶつた言ひ方かも。

後輩

先輩

「よ~~~く分かりました」みたいな感じね。

 

必要・當然・認定に關する助動詞の連文

『隋唐・食貨十一』

〔漢〕誠非明主所當宜[]

 

〔日〕これはまことに名君の[行ふ]べきことではありません。

ちよつとややこしい文ですが、大事な部分は「當宜[]」です。

これは「當然たうぜん」の文脈なので「おこなふべき」の意。

 

  • 宜當・宜可
  • 可應・可宜
  • 當宜・當應
  • 應當・應須・應合

他にも似たやうな形として、これだけあります。

多いなあ

後輩

先輩

これもみ手への配慮みたいなものだよ。

 

まとめ

なんだか助動詞の文の書き方が解つてきたがするよ。

後輩

先輩

後輩ちやんの場合、所爲せゐだと思ふけど、可能などの意味を表現したい時に、助動詞は避けて通れないからね。

そんなわけで助動詞について、文法をメインに書きました。

 

  • 可能
  • 必要・當然たうぜん・認定
  • 願望・希望
  • 受動

これらが含まれる文を書く際には助動詞を活用しませう。

 

▼意味の付加としての關聯くわんれん記事

漢文の付加的な形 定語と状語などの修飾語

 

註と參照文獻

參照文獻
  • 1) 『漢辭海・漢文讀解の基礎・五・助動詞』にて「その働きは動詞と同じであり、語法上の組み立ては述語構造と同じである」と説明してゐる。
  • 2) 加地(2010:144)は、「開發」の熟語を例にしてゐる。「開」字は「ひらく・はじめる・みちびく」など多義的であり、「發」は更に多い。しかし兩字とも「ひらく」の意を共有してゐるので、これを熟語化して「開發」とし、讀者に間違ひなく「ひらく」の意味を傳へうるのである。

 

參照文獻
  • 西田太一郎(2014年4月1日). 『新訂 漢文法要説(再刊第9刷)』. 朋友書店, 160p.
  • 加地伸行 等(2010年12月13日). 『漢文法基礎』. 講談社, 學術文庫, 608p.
  • 加藤徹(2018年12月10日). 『白文攻略 漢文法ひとり學び(第8刷)』. 白水社, 206p.

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